〒594-1132 大阪府和泉市父鬼町195                                                          

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営業時間:9:00~17:00
定休日:土日祝

日時 平成13年7月
被告 コンビニエンスストア
内容 コンビニが床掃除をしたあと乾拭きをしなかった。床に水分がわずかに残っていたことに、当時22歳の女性客が気づかず滑って転んで左腕に大ケガをしたとして。
損害賠償 約1000万
判決  床が濡れていた程度は見ただけではわからず手で触れてわかる程度の濡れ方だったため、通常の速度で歩いて転倒したのは水拭き掃除が事故の原因である。
店舗は、年齢、性別、職業等が異なる不特定多数の顧客に対して、安全を図る義務がある。
 床材は、コンビニ全店における統一規格の特注品であり、従業員に対し顧客が滑って転んだりすることのないように床の状態を保つよう、指導する義務があったされた。
 もっとも本事案では、女性客は靴底が減って滑りやすい靴を履いていたこと、パンと牛乳を持って両手がふさがった状態であったことなどから、客側の状態が損害の発生及び拡大に寄与したとして5割の過失相殺とされた。

滑らない床にするのは、とてもカンタン 

 滑り止めを施すのは誰でもできます。

 溶剤を塗布して水を流し洗浄で仕上げする。特別な知識は必要ありません。「塗れば止まる」からです。それでいいんじゃない?とお思いでしょうが、人間がもつ感性や美意識がそうさせません。

問題は

  • ①美観を“高レベル”で維持できるか?
  • ②防滑効果を維持できるか?

 問題は、床材の美観を残しながら滑り止めを施すこと。それは床材の種類や仕上げ、環境などさまざまな要素によって難易度が変わります。滑らない床にするのはカンタンと言いましたが、「美観を損ねれば」という前提です。

  そして、美観(光沢や色合い)の維持にもレベルがあります。

 当社は美観維持率を95%以上と設定していますが、それをすべての床材で実現するのは、カンタンではありません

 さらに、コーティングの種類によっても難易度は大きく変わります。例えば、シリコーン樹脂系コーティング済タイルは、市場に出回る溶剤の強弱調整では、まったく刃が立ちません。このように、防滑では100現場100様の世界が広がっているのです。

リーガロイヤルホテル(大阪)浴場

リーガロイヤルホテル(大阪)浴場

メンテナンスマニュアルで、10年以上も安全をキープ

 弊社は施工が終わると防滑効果を長く維持してもらうために、必ずメンテナンスマニュアルを提出してきました。平成11年から始めましたね。各現場に応じたメンテナンスのやり方があると思うからです。

リーガロイヤルホテル様にも提出してました。おそらくはキッチリ実施してくれていたと思います。10年以上もメンテナンスちゃんとやってくれて感謝してました。実は弊社の滑り止め溶剤「スリップアウト」を定期的に使用し、10年以上も安全をキープしてくれていたのです。

ホテルの方針変更による責任者の苦悩

 2回目の施工で久しぶりに責任者O氏と再会。今回の施工に至った経緯について説明を受けある意味で納得しました。ホテル上層部(方針変更)の決定に従うしかなかったというのです。

 O氏と共に浴場へ・・・現場を見て我が目を疑いましたよ。タイルが鈍く光を放っているではありませんか。浴場のヘリやタイル面の隅々に白いスケールが点在しています。

上層部の指示っていうのは次のとおり

  • ホテル内で使用する洗剤についてはホテルが採用決定したものに限定する
  • 業者による定期清掃は中止し、替わって日常的にスタッフが清掃を担当、実施すること

 コスト削減と安心安全なものを使うという考え方だったのでしょうが、残念ながらそれでは現場は守れないのです。何故守れないのか・・・その説明は施工終了の後で記したいと思います。

蓄積された体脂が溢れ出てヌルヌルの状態に

浴場施工については弊社独自の手法があります。手順は次のとおり。

特殊溶剤塗布(一般に販売していないSPレベルの溶剤です)二次溶剤塗布(特殊溶剤に重ね塗りしていきます)中和洗浄(弊社のアルカリ洗剤使用。今回はpH11.7レベルにして使用)シャワー(温水)を使用し洗い流す

体脂でヌルヌルのタイル

以上の手順で施工後、床面をチェックすると、床面がタイル内部から蓄積された体脂が溢れ出てヌルヌルの状態となりました

プチ解説:なぜ体脂がタイルから溢れ出たのか?

 原因はホテル方針変更によりこの2年間使ってきた洗剤の能力が低く、日々の体脂肪の除去がまったくできていなかったのです

 スタッフは毎日ポリッシャーがけを実施しておりました。そこでホテルが支給していたアルカリ洗剤を調べてみると、米国メーカーでpH10の洗剤で、スタッフは販売会社の指導でその洗剤を10倍希釈して使っていたようです
実質使用していた洗剤はpH値は9となりますが、このレベルでは体脂肪(動植物性油脂)には歯が立ちません

防滑効果を維持させるため、体脂除去からスタート

アルカリ洗浄作業

床内の体指がこれだけ飛び出してくるってことは、まだまだ床内に留まっている答えです。通常はヌルヌルの脂肪を中和洗浄すれば滑りは止まりますが、床内の脂肪成分を出来る限り除去しておかないと防滑機能が長続きしないと判断。

やれるだけやりましょうか。

施工総面積約65㎡
やるだけのことはやりました。施工中に作業者の一人に別途指示を出していました。それは床面に点在するスケール除去です。私が最終チェック。まぁ完璧ではないけれど、目立たない程度にはなっていたので良しとしました。

脂(油)というのは、必ず酸化します。しかも2年間床内部で酸化を続けた体脂肪ですから恐らくはpH6レベルまで酸化が進んでいると考えられます。アルカリ性洗剤を使用理由は、脂肪を中和分解するのが目的のはずです。pH9レベルでは、ハッキリ言って”屁”の役にもたちませんがな。

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かぼちゃの天ぷら。この後スタッフが美味しくいただきました(2020年12月9日/弁護士ドットコム撮影)

 首都圏で展開しているスーパー「サミット」の店舗で、床に落ちていた天ぷらを踏んで転倒し、ケガをしたとして、30代の男性客が、同社に対し約140万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は12月8日、同社が安全管理を怠ったと認めて、約57万円の支払いを命じた。 

 報道によると、男性は2018年4月、サミットストア練馬春日町店(東京都練馬区)で、レジ付近に落ちていたカボチャの天ぷらで足を滑らせて転倒し、ひざを負傷した。 東京地裁は、天ぷらを落としたのは、従業員ではなく、利用客によるものだったとしたうえで、消費者庁のデータを基づいて「想定外の事態とはいえない」と指摘。店側が安全確認の徹底などで「物が落下した状況が生じないようにすべき義務を尽くさなかった」と判断した。 

 一方、天ぷらの大きさからして、男性も容易に天ぷらの存在に気づくことができたにもかかわらず、足元の注意を怠った過失があったとして、賠償額を減らしたという。 店側にとっては厳しい判決となったが、どこまで安全管理についての義務を負わなければならないのだろうか。

田沢剛弁護士に聞いた。

 ●店側には来店客がケガを負わないよう注意すべき義務がある ――

 店側の安全管理に関する義務違反が認められましたが、通常、店側は具体的にどのような義務を負っているのでしょうか。 民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」として、不法行為責任を定めています。 これは、加害者と被害者との間の契約関係の有無を問わずに規律する一般的な責任ですから、不特定多数の利用客が出入りするスーパーも、この責任を免除されるわけではなく、利用客の権利または法律上保護される利益を侵害しないよう注意すべき義務があるということになります。 他方で、安全配慮義務違反というものがあります。これは、一般的に雇用主と従業員との間の雇用関係などに基づいて生じる契約責任の問題であって、上記の不法行為責任とは異なります。 どちらも損害賠償責任という点では同じですが、立証責任や消滅時効の期間などで違いが生じます。 ――今回のケースはどちらでしょうか。 今回の判決は、報道の限りでは「安全管理を怠った」とされており、「安全配慮義務を怠った」とはされていませんので、安全配慮義務違反を認めたものと解するのは早計であり、一般の不法行為責任を認めたに過ぎないものと推測されます。 不特定多数の利用客がスーパーに入店することで、直ちにスーパーに対して利用客に対する安全配慮義務を課すほどの契約関係が生じると解釈するのは困難だからです。 

 義務違反となるか否かのポイントはどこにありますか。 今回のケースは、スーパーの利用客が落とした天ぷらを別の利用客が踏んで転倒し、ケガをしたというものです。 通常であれば、スーパー側の過失(注意義務違反)については、落ちている天ぷらをしばらく放置したという点に求めることになるでしょうが、その場合は「放置した」といえるか否かを解明する必要があるでしょう。

 ●「どこまで注意義務を負うのか」は、実際の事故件数なども影響 

――落下した直後の転倒などは、常時監視していても防ぎようがないように思われますが、そのような場合にまで義務違反が認められてしまうのでしょうか。 常時監視していたのに防げないような落とした直後の転倒を防ぐためには、そもそも利用客が落とさないような仕組みを考えるほかないと思いますが、常時監視も含めてそこまでの注意義務をスーパーに負わせることは行き過ぎという気もしますし、一方で、超高齢社会といった時代を背景に、そこまでの注意義務を負わせても問題ないといった考え方も出てくるでしょう。

 ――ネットでは「店が悪いのか?」「客が落としたものにまで責任を負うのか」などの意見が見られます。 買い物をする高齢者の割合が増加し、実際にも転倒事故が増えているということであれば、スーパー側にこれを防ぐための注意義務を課すということは、あながち不自然なことではありません。 不法行為責任の要件である過失の前提となる注意義務は、法律の明文に規定されているものだけでなく、社会生活上の諸般の事情を根拠として導かれるものも多々あります。 後者の場合は過失の有無をめぐって争いの種になりますので、最終的には司法の判断を待つしかありません。 ――店側としては、今後どのような対応が求められるのでしょうか。 今回の判決がいわゆる先例として定着するかどうかは不明ですが、もしも定着したら、スーパーとしては、お惣菜売り場に監視員を常駐させるというところまではいかないにしても、定期的に天ぷらが落ちているか否かを確認することくらいは検討する必要が出てくるように思います。

 飲食店の入っているビルやスーパーなどで何気なく歩いていたところ、床が濡れていて滑ったことなどが原因となって転倒した場合、施設管理者に対して、責任追及を行うことができる可能性があります。
 建物の設置管理者の責任としては、民法717条第1項に定めがあり、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」とされています。そのほか、安全配慮義務違反として、債務不履行責任を負うことがあります。
 ここでいう「瑕疵」とは、通常有すべき安全性とされ、どんな場合でも事故が生じてはいけないというような、極めて高度なものとまではいえません。このため、施設管理者は「通常の使用を前提として安全性が確保されている」といえる程度の管理を行う義務があり(最判昭和45年8月20日)、これに違反していると、責任追及を受ける可能性があります。
 近年、このような考え方がある程度社会に浸透していることもあって、設備や管理に問題があって転倒して怪我をした場合、その責任追及をしたい、という相談があります。確かに施設管理の責任はあるため、店舗などで転倒事故が発生した場合、きちんと謝罪を行って、補償の話を行うこともあり得ます。
しかしながら、だからといって、単純に転倒した=責任追及が可能であり、高額な請求ができる、という図式にはなりません。
といいますのも、施設管理者の設置管理に瑕疵があったことは転倒者が証明しなければなりません。また、それによって転倒したこと、怪我の治療が必要になって具体的にどのような治療を受け、それによっていくらを支払った、ということも転倒者が証明しなければなりません。さらに、その請求金額はあくまで「損害」であり、賠償によって高額な利益が得られるものともいえないのです。
加えて、他の利用者が普通に歩行していたような場合、転倒者の不注意によって転倒したとも判断されかねず、この場合には過失相殺を受け、請求金額が減額される可能性があります。
このようなことを考えますと、相当な負担が生じますので、怪我が軽微な場合には、どこまでの請求を行うのかは、慎重に検討しなければなりません。
 他の事件でも同じなのですが、仮に請求を行う場合には、いろいろなことを調査し、資料を揃えていく必要がありますので、転倒事故での賠償請求をお考えされるような場合には、まずは弁護士に直接相談されることをお勧めします。この場合、自動車保険で附帯している弁護士費用特約が利用できる可能性もありますので、確認されてみてもいいでしょう。
施設の管理をされる者におかれては、施設内を安全に保つことも重要ですが、転倒者が感情的になることで争いが重大かすることも多いため、転倒者が出たような場合、頭から請求を否定するのではなく、まずは真摯に話を聞いて対応し、それでも問題が解決しないようなら、法的手続を検討されるといいでしょう。弁護士に交渉を依頼していただくことも有用です。
当事務所では、このような案件も扱っておりますので、転倒者側、施設管理者側、いずれの場合でも、お困りになられましたら、いつでもご相談ください。

1 今回の判例  店内での転倒事故と店舗側の責任

東京高裁平成26年3月13日判決

 57歳の女性客AがB銀行のATM利用後、外に出ようとして店舗出入口に敷かれた足ふきマットに足を載せた途端、マットの端がまくれ上がって転倒し、後遺障害が残る傷害を負いました。

 そこで、AがB銀行に対し、不法行為による損害賠償請求訴訟を提起しました。

 第1審判決は、マットの裏が濡れていたことは認めつつも、専らAの不注意によってマットが滑り事故が発生した可能性もあるとしてB銀行の責任を認めませんでした。これに対して、Aが控訴したのが本件です。

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下の事情を考慮して、B銀行の責任を肯定しつつ、4割の過失相殺を認めました。

● B銀行には、顧客が出入口に敷かれていたマットの上を通常の態様で歩行するに当たって加えられる力により床面上を滑ることがないように整備しておくことが求められる。

● Aは急いで出入口に向かった様子もなく、マットの端から10〜20cmの所に足を乗せたところ、マットが横にずれたためバランスを崩し滑り込むような体勢となって転倒した。事故当時、マットの裏面は湿って波打った状態にあったことから、床面上を滑りやすい状態で敷かれていた点でB銀行には注意義務違反がある。

● ただ、Aももっと注意深く足を運び、身軽な状態であればマットがズレて盛り上がったとしても転倒しなくて済むか、転んでももっと軽いケガで済んだことも考えられ、4割の過失相殺を認めるべきである。

3 解説

(1)店舗における顧客の転倒事故についての責任

 店舗において顧客が転倒する事故が発生した場合、どこまでが顧客の自己責任で、どこからが店舗経営者の責任となるのでしょうか。

 この場合の店舗経営者の責任には、法律上は、「債務不履行責任」というものと「不法行為責任」というものの二種類が考えられますが、実質的な内容はほぼ同じです。すなわち、事故を予見し得たこと(予見可能性)と結果を回避する義務があってそれに違反したことの両方が肯定される場合に、責任が認められます。

 例えば、雨が降れば傘の雫や濡れた靴により床が濡れることが予見できるので、滑りやすい材質の床やマットはそもそも避ける必要があり、また床が滑りやすくなっていればモップで拭くなどの適切な対処をして事故を回避する義務が認められるという方向で考えられることになります。

 他方、そうした対処をしても、顧客が通常では想定できないような歩き方をしたために事故が発生したような場合には、顧客の自己責任として店側の責任が否定される方向で考えられることになります。

○「店舗出入口手前段差転倒鼻背部傷害事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介」の続きで、この判例と同様、民法第717条土地工作物管理瑕疵責任に関する判例紹介です。いずれも当事務所取扱事案に関連する参考判例です。

○被告が運営していたコンビニエンスストアの店舗内で原告が転倒し負傷した事故につき、原告が、本件店舗の床が雨や泥の影響で滑りやすかったにもかかわらず、被告がその防止措置や注意喚起をしなかったなどと主張し、工作物の占有者責任ないし安全配慮義務違反の債務不履行に基づき、逸失利益及び慰謝料等約6000万円の損害賠償を請求をしました。

○この請求に対し、本件店舗に使用された床材やタイルに不備はなく、本件事故当時、被告は本件店舗の出入口に2枚の床マットを設置して靴底の水分等をできるだけ除去するよう対策を講じていたこと等に照らして、転倒場所の床が雨天時に通常やむを得ず生じる程度の湿った状態を超えて滑りやすい状態にあったとは認められない上、雨天の影響により本件店舗の床が湿っていることにつき、来店客は一般にその可能性を認識しているのが通常であることも併せ考えれば本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたとは言えず、被告が来店客の安全を図るべき注意義務に違反した事実も認められない等判断して、原告の請求を棄却した平成23年1月27日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,金5961万5686円及びこれに対する平成18年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第2 事案の概要
 本件は,被告が運営していたコンビニエンスストア「SHOP99・a店」(以下「本件店舗」という。)の店内で原告が転倒し負傷したこと(以下「本件事故」という。)につき,原告が,本件店舗の床が雨や泥の影響で滑りやすかったにもかかわらず,被告がこれを防止するための措置や注意喚起をしなかった上に,店内通路に荷物を置き歩行を妨げるなどしたため本件事故が発生したと主張し,工作物の占有者責任(民法717条1項)ないし安全配慮義務違反の債務不履行(同法415条)に基づき,逸失利益及び慰謝料等の損害賠償を請求している事案である。


1 争いのない事実等
(1) 原告(1957年○月○日生)は,b航空の客室乗務員として稼働している者である(甲22)。
(2) 被告は,生鮮食料品の販売等を目的とする株式会社であり,平成18年10月1日当時,「SHOP99」の屋号で食料品や日用雑貨を販売し,名古屋市〈以下省略〉所在の本件店舗を運営していたものである。
(3) 平成18年10月1日夕方,同伴者の女性とともに本件店舗を訪れた原告が,店内のパンコーナーと食品コーナーの間の通路を通行中に転倒する本件事故が発生した。
(4) 原告は,本件事故の発生後,救急搬送された名古屋市内所在の医療法人吉田病院においてB医師の診察を受け,帰国後はグアム所在のCMIファミリーメディカルセンターにおいてC医師の診察を受けた(甲4,5)。
(5) 本件事故の発生当時ころ,本件店舗付近は雨天であった(甲8)。


2 争点
(1) 設置又は保存の瑕疵及び安全配慮義務違反の有無

(原告の主張)
ア 本件店舗の床に使用されているPタイルは,他の床材と比べて水濡れ等で滑りやすいもので転倒事故を招く危険が指摘されており,設置にあたっては水や砂塵の持込みを抑え,持ち込まれた場合は直ちに除去するよう管理すべきことが指摘されている。そして,現に本件事故が発生していることや,水滴及び粉体がある状況下においてPタイルのC.S.R.値(滑り抵抗係数)が転倒の危険のある下限値に近い0.46ないし0.47を示していること,実際の靴の素材や歩行条件等によってはさらに滑りやすくなると考えられることからすると,Pタイル自体が転倒事故を招来する危険性があったといえる。

イ 本件事故当日の午後,本件店舗付近は雨天であったが,本件店舗の入口には足拭きマットが置かれておらず,店内の床が濡れており転倒の危険性が高い状況にあった。それにもかかわらず,本件店舗では,濡れた床をモップ掛けする店員もおらず,目視で店舗の床が濡れているのに気付くまでは床を拭くことなく濡れたままとなっているのを許容していた。

ウ また,床が濡れていることの警告を表示していれば,不特定多数の来店客に対し,より慎重な歩行を促して転倒の危険性を低減できたにもかかわらず,本件店舗には,来店客に対して床が濡れていることを警告する表示がなかった。

エ 本件店舗では,転倒場所となった通路に商品箱等の荷物を放置して,来店客が不自然な状況ないし無理な体勢での歩行を余儀なくされる状況を作出しており,床が濡れていたことと相俟って転倒の危険性を高めた。

オ 本件店舗は,不特定多数の来店客に場所を提供して商品を選択,購入させて利益を得ることを目的とした屋内の営利施設で,床の滑りやすさという危険性を排除するために必要な措置をとることは十分に可能であり,かつ,その利益から適切な費用を支出して各種措置を講じることが求められ,被告に課せられる安全管理義務の程度は高いものといえる。

カ 以上によれば,被告は,来店客が安全に買い物をできるように配慮すべき注意義務に違反していたため,本件店舗には通常備えるべき安全性が欠如しており,原告は,濡れた床に足を滑らせて転倒したものというべきである。

(被告の主張)
ア 本件店舗の床材は,コンビニエンスストアをはじめ多くの商業施設等で広く一般的に使用されているPタイルであり,水及び粉体を散布した状態でのC.S.R.値が0.46ないし0.47と,歩行に重点を置いた場合のC.S.R.値の許容範囲である0.40〜0.80に照らして,特に滑りやすい性状のものではない。

イ 本件事故当時の雨量は,1時間に1mm降るか降らないかという程度の小雨にすぎなかった上に,本件店舗の入口には外と内に合計2枚の床マットが置かれていたし,転倒場所となった通路も来店客が頻繁に通る部分ではなく,水滴が生じうる冷蔵ケースの付近でもない。また,転倒した原告に駆け寄った被告従業員のD(以下「D」という。)も床が濡れていたとの認識はなく,原告及び同伴者からも何ら指摘がなかった。よって,転倒場所の床が濡れて危険な状態になかったことは明らかである。

ウ 本件事故当時,本件店舗には床が滑りやすいことを示す警告板を設置していなかったが,警告板は,一般客が普通は知り得ない事情(ペンキ塗りたて,水拭き清掃など)があるから設置されるのであり,雨天で床がある程度濡れていることは来店客が一般に知りうることで,あえて警告しなければならないものではない。
 また,被告では,本件店舗の入口に靴底を拭くための前記2枚の床マットを敷いていたほか,傘立てを設置して濡れた傘が店内に持ち込まれないよう対策を講じ,床のPタイルは適宜従業員がモップで乾拭きしていた。

エ 本件事故当時,転倒場所の通路には,陳列用の箱や段ボール等が置かれていたが,歩行を困難にする程度ではなく,箱等は片側に寄せて通路を確保することが心掛けられており,台車等の転倒が懸念される危険な物も置かれていなかった。

オ 以上のように,本件事故につき被告には何らの責任もない。原告は,店舗内で転倒したから店舗側に責任があるとの,民法その他日本の法令が予定していない考え方に基づいて本件訴訟を提起している。なお,本件店舗に来店しただけでは,原告と被告との間に何らかの契約関係を認めることはできないから,安全配慮義務違反の債務不履行の主張は理由がない。


(2) 損害額
(原告の主張)
ア 原告は,本件事故により下腿後面等の筋肉群等の軟組織の断裂・損傷,浮腫ないし内出血,椎間板狭窄,既往症である脊椎の変性椎間板の状態悪化,既往症である右足首等関節の浮腫,骨盤不整列等の傷害を負い,継続した痛みや運動制限による苦痛を被り,客室乗務員としての勤務にも支障が生じた。
 本件事故以前の交通事故等による原告の後遺障害は12級相当であったが,本件事故後の原告の後遺障害等級は6級相当である。

イ 逸失利益 3839万6079円
 慰謝料 1580万0000円
 弁護士費用 541万9607円
 合計 5961万5686円

(被告の主張)
 争う。
 原告は,現在も航空会社で客室乗務員として勤務しており,6級相当の後遺障害を負っているということはあり得ないし,本訴提起後に症状の認定が大幅に変更された理由や症状が固定した時期は,未だ明らかでない。
 仮に,原告が何らかの後遺障害を負った状況にあるとしても,原告は,本件事故以前に交通事故に遭って足首を負傷しており,現在の症状は本件事故というよりは既存の状態が原因となった可能性のほうが大きいと診断されているほか,本件事故後にも空港で怪我を負ったようであり,本件事故以外の原因により症状が悪化した可能性もあるから,本件事故と損害との因果関係は何ら立証されていない。


第3 争点に対する判断
1 争点(1)について

(1) 前記争いのない事実等及び証拠(甲3,8,19,22,31,乙1,2の1ないし2の3,3ないし5,7の1・3,8,9の1ないし9の4,10ないし13,証人D)並びに弁論の全趣旨によれば,本件店舗の床に使用されているPタイルは,日東紡績株式会社製のコンポジション系ビニル床タイルであるポトマックPKN(以下「本件床材」という。)が使用されていること,本件床材は,コンビニエンスストア等の商業施設で一般的に使用されているものであり,本件店舗の床には平成16年の開店時に貼られたこと,平成22年4月に本件店舗の床から切り取られた本件床材は,品質性能試験の結果,C.S.R.値が乾燥状態で0.93,湿潤状態で0.88ないし0.86,水及び粉体を散布した状態で0.46ないし0.47であったこと,事務所等一般建築物の床の滑りの評価指標として,C.S.R.値の最適範囲は0.55ないし0.70,歩行に重点を置く場合の許容範囲例は0.40ないし0.80とされていること,本件事故が発生した通路は,本件店舗の出入口から見て右から2番目の幅約120cmの通路で,転倒場所は,同通路を出入口側から約5m入った位置にあり,両側がパンの陳列棚と調味料やレトルト食品等の陳列棚となっていて,本件事故当時,商品が入ったプラスチックケースが通路の約3分の1程度を塞ぐ形で床に置かれていたが,床のPタイル自体に損傷や顕著な劣化は見られなかったこと,本件店舗では,平成22年6月1日に被告の直営店からフランチャイズ店に変更されるまで,出入口の外側に1枚,内側に1枚の合計2枚の床マットが設置され,月2回の交換・洗浄が行われていたこと,本件事故当時,名古屋市では1時間に0.5mmないし2mmの降水量が観測されたことがそれぞれ認められる。

(2)
ア 以上の認定事実を総合すると,本件店舗に使用された本件床材は,水や砂塵の持込みを前提に測定したC.S.R.値に照らして,来店客が店内を歩行する場合に特段滑りやすい性質のものではなく,商業施設等で一般的に採用されているもので,本件床材が他の床材に比べて転倒事故の危険性が高いものであるとは認められないから,これを採用したこと自体をもって本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとはいえないし,本件店舗のPタイルは,本件事故の時点で新規設置から3年程度しか経過していないものであり,本件事故現場の床の状況を見ても,経年劣化が進んでいたとか管理・保存状態に不備があったとも認められない。

イ また,前記認定事実によれば,
本件事故当時,本件店舗内の通路には,降雨の影響により来店客の靴底や傘等から水分が持ち込まれていたことが推認できるが,被告が本件店舗の出入口に2枚の床マットを設置して靴底の水分及び砂塵等をできるだけ除去するように対策を講じていたこと,転倒場所付近に陳列された商品や陳列棚から水滴や液体が床に落ちることは想定できないこと,本件事故当時,転倒場所に水たまりができていたとか泥で汚れていたという状況はなかった旨を証人Dが証言していることに照らしてみると,本件事故当時,転倒場所の床が,雨天時に通常やむを得ず生じる程度の湿った状態を超えて,水や泥で滑りやすい状態にあったものとはにわかに認められないというべきである。そして,本件事故当時,雨天の影響により本件店舗の床が湿っていることは,来店客にとって予期し得ない事態ではなく,一般にその可能性を認識しているのが通常であることも併せ考えれば,転倒場所の床は,乾燥時に比べれば若干の滑りやすさはあるものの,来店客が通常の注意力をもって歩行しても転倒する危険性があるほど滑りやすい状態にあったものとは認められず,転倒場所の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとは認められないというべきである。

ウ さらに,これら認定説示に照らせば,本件事故当時,本件店舗の床が滑りやすく転倒の危険性が高い旨を来店客に警告すべき状況にあったものとはいえず,これをしないことが被告の注意義務違反にあたるとは認められない。

エ 前記認定事実によれば,本件事故当時,転倒場所付近の通路は,約3分の1程度の幅が商品の入ったプラスチックケースで塞がれた状態にあったことが認められるが,これを考慮しても,同通路は,人が通常の姿勢のまま歩行できる幅員が十分に確保されていたものと認められ,来店客に不自然な姿勢や無理な体勢を強いて転倒の危険性を高めるような状況にはなかったものというべきである。

オ その他,本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたことや被告が来店客の安全を図るべき注意義務に違反したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) そうすると,本件事故当時,本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとは認められず,その設置又は保存に瑕疵は認められないというべきであるし,被告が来店客の安全を図るべき注意義務に違反した事実も認められないというべきであり,原告の主張は採用できない。

2 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判官 小崎賢司)

事故概要

スーパーマーケット(以下「本件店舗」という)を訪れた客が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負った 

この事故の事故パターン

 

  事故のきっかけ 事故の過程 結果 詳細と留意点
  濡れ  すべる  転倒(床の上で転ぶこと) 

事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 店舗・娯楽施設等  
場所 その他室内  
建築部位 平坦な床  
障害程度   
事故にあった方 年齢 38歳 
性別 女性 

判例の詳細

責任の所在
店舗建物を管理している会社の工作物責任を否定 清掃を怠ったとする従業員の責任を前提とする店長(使用者)の責任を否定
瑕疵・過失の有無
瑕疵、過失いずれも無                                                                    

判例の解説

裁判所の判断
裁判所は、概ね以下のように述べて、工作物責任使用者責任のいずれについても理由がないとして、原告の請求を棄却した。

① 本件店舗の床はそれ自体として特段危険性を有するものではなく、床に水濡れが生じたとしても直ちに危険となるものではないが、床の一部分についてのみ大きな水濡れが生じ、周辺と大きな滑り抵抗値の差が生じた場合には、一応転倒の原因ともなりうる状況にあったものというべきである。

② 床の清掃状況、当日は冬であり、また降雨の有無はともかく雨天気味で湿気は相当にあったと考えられ、床に水分があった際に乾燥するまで時間がかかると考えられる状況にあったこと等の事情が認められ、これらによれば、本件当日に転倒現場付近で開店前の水モップ拭きが行われた可能性は必ずしも否定されないが、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ない。

③ 開店時間前後において本件店舗付近、あるいは原告宅から本件店舗までの道のりにおいて強い雨が降っていたと考えることはできず、原告の衣服等から多量の水が床に落ちたと考えられるわけでもないのであって、転倒当時の床の状況としては、床が多少水分を帯びていた状況自体はあったとしても、それを越えて、床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。

④ このような床の状況を前提とすると、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではなく、また転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまるものであったと考えられ、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、あるいは床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められない。

⑤ 本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことにも照らすと、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。

⑥ 以上からすれば、本件店舗の床の管理について瑕疵があったとは認められず、また被告従業員において床の管理に関する注意義務違反があったとも認められない。

本判決のポイント
建物等の瑕疵に基づく工作物責任や安全配慮義務違反に基づく責任の有無につき、建物や設備が法令に従いかつ性能的に十分な安全性を確保しているかを問うている点や、ほかに同様の事故が生じていたか否かを上記責任の有無のひとつの判断材料としていることが参考となる。

事件番号・判例時報 平成21年(ワ)第850号
2113号119頁 
裁判年月日 平成22年12月22日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 名古屋地裁岡崎支部 
判示 棄却 
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者 38歳女性(当日の服装は、下はジーンズ、上はパーカー、バックを持ちスニーカーを履いていた) 
天候等の状況 事故当日の朝は小雨が降っていたが、事故が発生した時間帯は降水量ゼロであった。ただし地面は濡れていた。 

【結 論】 床掃除の後処理が不十分だったとき、コンビニを統括する本部に対して賠償請求できる。(大高H13.7.31)

 道路上の事故ならば当然に110番通報するでしょうが、商業店舗内での事故は通報することが少ないと思われます。事故の内容も客が自分で転んだ、客同士の衝突、陳列商品にぶつかったなど色々ありますが、事故の状況を把握するため警察への通報は必要と思われます。
 本事案は、コンビニが床掃除をしたあと乾拭きをしなかった。床に水分がわずかに残っていたことに、当時22歳の女性客が気づかず、滑って転んで左腕に大ケガをした。そこでコンビニを統括する本部に、1000万円以上の賠償請求をしたものです。

 コンビニ側は、事故は専ら客の不注意によるものである、床材は滑りやすい性質のものではない、掃除のあと残った水分を拭き取る義務はないと主張しました。原審の大阪地裁はこの主張を認め、客の自招事故であるとして訴えを棄却しました。

 これに対して大阪高裁は、客の賠償請求を認めて約210万円(ただし客にも5割の過失があったとして105万円)を、コンビニ運営本部に支払うよう命じました。
 高裁は、床が濡れていた程度は見ただけではわからず手で触れてわかる程度の濡れ方だったため、通常の速度で歩いて転倒したのは水拭き掃除が事故の原因である。店舗は、年齢、性別、職業等が異なる不特定多数の顧客に対して、安全を図る義務がある。
 床材は、コンビニ全店における統一規格の特注品であり、従業員に対し顧客が滑って転んだりすることのないように床の状態を保つよう、指導する義務があったとしました。
 もっとも本事案では、女性客は靴底が減って滑りやすい靴を履いていたこと、パンと牛乳を持って両手がふさがった状態であったことなどから、客側の状態が損害の発生及び拡大に寄与したとして5割の過失相殺(原因の半分は客側にあった)を認めました。

 最近アウトレットモールや、家具を扱っている大規模店舗があちこちに見られます。とくに注意すべきは、店内を走り回るカートや混雑時に人と人が交差する動線です。カートの事故や客同士の衝突などは、過失傷害罪など刑事上の事件に発展しかねないケースもあります。
 このような事故が起きたとき、店舗側がどの程度積極的に事件や事故に対応してくれるかといえば、はなはだ心許ないというのが実感です。本事案のように、明らかに店舗のメンテナンスに問題があった場合は別ですが、商品展示のしかたや人の動線計画に問題があったとしても、全く責任を感じず、客同士の問題にすり替えてしまう店も多いようです。
 冒頭にも述べましたが、事件か事故が区別がつかないときは110番通報をする、保険に個人損賠賠償責任特約をつけておくといった用心がますます大切になってきています。

 以前住んでいたマンションのロビーからエントランス付近で鏡面加工した大理石の上を踏んだら、すごい勢いで滑って転倒した。かなり強い打撲傷を作ってしまい、数週間にわたり湿布をしていた。後日、マンションの理事会でこの話をしたら、ほとんどの理事が「自分も・・」と異口同音に同じような経験をしていた事がわかった。

この事故の事故パターン

  事故のきっかけ 事故の過程 結果 詳細と留意点
  すべる床材  すべる  転倒(床の上で転ぶこと) 
 

事故概要詳細

情報ソース インターネット調査(画像無し) 
建物用途 集合住宅の共有部等  
場所 出入り口 廊下・ホール  
建築部位 平坦な床  
障害程度 軽度のケガ  
事故にあった方 年齢 51歳 
性別 女性 

 マンションの理事会で住人様の安全安心に生活出来るように、ロビーやエントランスの床の滑り止め施工を提案しましょう。

雨の日の転倒

事故、ヒヤリ・ハット事例

  • 雨が降っていた、濡れた道。タイルの道で、傾斜があり、普通のスニーカーのような靴で滑ってしまった。晴れている日はなんともない道だったので、濡れると滑るようだ。(30代男性)
  • 外は雨が降っていたので、入った建物の床や階段が水で濡れ、足を取られ転びそうになった。(20代男性)
  • 雨よけカバーをベビーカーに着けて道を歩いていたら、風にあおられてカバーが取れてしまい、そのまま風を受けてベビーカーが倒れそうになった。(30代女性)
  • 雨の降っている日に、杖を持ち駅の構内を歩いていたら杖の先が滑って転倒した。(40代女性)

  事故を防ぐポイント

  • マンホール、道路の白線、タイルの歩道等に注意!
    雨で濡れると滑りやすくなる場所があります。滑って転ぶと、打撲・骨折等、思わぬ大ケガに結びつく場合があります。
  • 建物の中でも、濡れた床に注意!
    駅、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでも濡れた床が滑りやすくなっている場合があります。
  • ベビーカーでの外出は慎重に!雨風が強いときは、雨よけカバーが風であおられる・傘を差しているため操作しづらい等の危険があります。雨の日のベビーカーの使用はなるべく控えましょう。やむを得ず使用する場合は、十分に注意しましょう。
  • 杖の使用も慎重に!
    杖の先端のゴムは、接地面が小さいため、靴底などよりも滑りやすいです。また、ゴムが摩耗してくると危険性が高まりますので、早めに交換しましょう。

【参考】

事故概要

被告が経営するスーパーマーケットを顧客として訪れた原告が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負った 

この事故の事故パターン

  事故のきっかけ 事故の過程 結果 詳細と留意点
  濡れ  すべる  転倒(床の上で転ぶこと) 
 

事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 店舗・娯楽施設等  
場所 廊下・ホール  
建築部位 平坦な床  
障害程度 軽度のケガ  
事故にあった方 年齢  
性別  

判例の詳細

責任の所在
責任なし
瑕疵・過失の有無
瑕疵・過失なし
(理由)
・床の材質(床材は「コーデラ」という材質)からすれば、本件店舗の床はそれ自体として特段危険性を有するものではなく、床に水濡れが生じたとしても直ちに危険となるものではないこと
・大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ないこと
・本件店舗付近や原告宅から本件店舗までの道のりにおいて強い雨が降っていたと考えることはできず、原告の衣服等から多量の水が床に落ちたと考えられるわけでもないこと
・本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないこと

過失相殺

損害賠償の範囲

判例の解説

事案の概要
被告が経営するスーパーマーケットを顧客として訪れた原告が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負ったとして、被告に対し、①建物の管理について瑕疵があったとして民法717条に基づき、また②被告の従業員において、床を濡らしたままにしないよう水分を拭く等の注意義務があったのに従業員らがこれを怠ったものであるとして民法715条に基づき、治療費等の損害賠償を請求した事案である。
裁判所の判断
1 本件店舗の床の材質(床材は「コーデラ」という材質)からすれば、本件店舗の床はそれ自体として特段危険性を有するものではなく、床に水濡れが生じたとしても直ちに危険となるものではない。

2 床の一部分についてのみ大きな水濡れが生じ、周辺と大きな滑り抵抗値の差が生じた場合には、一応転倒の原因ともなりうる状況にあったものというべきであるが、当日の開店前に若干の水分が転倒現場付近に残っていた可能性は必ずしも否定されないにせよ、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ないことなどからすれば、転倒当時の床の状況としては床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。

3 したがって、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではないこと、転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまり、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められないこと、本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことからすれば、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。よって、本件店舗の床の管理について瑕疵があったとは認められず、また被告従業員において床の管理に関する注意義務違反があったとも認められない。

本判決のポイント
設備等の材質や同様の被害状況の有無等から当該工作物の設置保存の瑕疵の有無を検討している点が参考になる。

事件番号・判例時報 平成21年(ワ)第850号 
裁判年月日 平成22年12月22日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 名古屋地方裁判所岡崎支部 
判示  

 消費者庁には、子どもが雨でぬれた道路や階段などで滑って転倒しけがをしたとの事故情報が、医療機関(※)から寄せられています。

「ぬれた排水溝の蓋の網の部分で滑って、後ろ向きに転倒。後頭部をぶつけ、3針縫うけが。」(3歳)

「雨で外階段がぬれていたため、滑って10段ほど前のめりに転落し、左手首を骨折。」(8歳)

雨の日は道路や階段、店舗等の床などがぬれて、滑りやすくなっています。階段での転倒は重大な事故につながるおそれがあるため、特に注意が必要です。また、段差や傾斜のある場所も危険です。子どもにはぬれた道路や階段、床の上では気を付けて歩くよう、声を掛けましょう。

(※)消費者庁は国民生活センターと共同で、医療機関(平成30年5月時点で24機関が参画)から事故情報の提供を受けています(医療機関ネットワーク事業。平成22年12月から運用開始)。

身近な危険箇所

 街の中にはすべり易い場所が意外と潜んでいます。 雨降りなどで床が濡れると、そこは、凶器にもなり得ます。

危険な場所の例

案内表示

 駅構内で見つけた案内表示のタイル素材です。そのものも滑りますが、最もやってはいけないことがあります。
それは、床面の一部にすべり抵抗係数の違う(他の箇所よりも滑りやすい)タイルを使用することです。
そこまで歩いてきた感覚でこのタイルに踏み込んだ瞬間にツルッと滑ります。

駅の階段

 タイルにゴムが埋め込まれていますので、新品の状態では滑りませんが、磨耗してしまいますと大変危険です。
段鼻のすべり止めゴムの劣化なども著しくなりますと改修が必要になります。

はがれた滑り止めテープ

 すべり易い箇所に張られたヤスリ状のテープです。
その後、施設管理者が代わりご覧のような状態になってしまいました。危険な上に美観も損ねています。

歩道上のマンホール

 車道のマンホールで2輪車が転倒するのはよく聞く話ですが、歩道上にあるマンホールでも歩行者の転倒事故は絶えません。
降雨時は細心の注意が必要です。

歩道上のグレーチング

 マンホール同様に注意が必要です。
ひとたび雨が降れば凶器になります。特に女性のハイヒールは危険ですのでご注意下さい。

磨り減った御影石

 何気ない石張りの歩道です。完成当時は景観も良く大変喜ばれましたが、経年変化により表面が磨り減っています。
雨の日に注意が必要な床材の1つです。

事故概要

 区立の小学校(以下「本件小学校」という。)に通っていた被害者(事故当時小学校5年生)が、授業の休憩時間中に、本件小学校の多目的ホール(床材が木製フローリング部分)又はエントランスホール(建物の一階の下駄箱が設置された昇降口と本件多目的ホールとの間にあるホール。以下「本件エントランスホール」という。床の材質はビニルシート)で、同級生の少年に投げ飛ばされ、床に落下したために傷害を負った。 

この事故の事故パターン

  事故のきっかけ 事故の過程 結果 詳細と留意点
  その他・詳細不明  その他・詳細不明  転倒(床の上で転ぶこと) 
 

事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 学校  
場所 廊下・ホール  
建築部位 平坦な床  
障害程度   
事故にあった方 年齢 小学校5年生 
性別  

判例の詳細

責任の所在
区の責任(営造物責任〜国賠法2条、安全配慮義務違反〜国賠法1条)が否定


瑕疵・過失の有無
瑕疵、過失いずれも無

①本件店舗の床材は「コーデラ」という材質になっているところ、同材質の滑り抵抗値は乾燥時に0.83、水濡れ時に0.54、水+ダストの状態で0.4であった。

②事故当日は冬であり、また降雨の有無はともかく雨天気味で湿気は相当にあったと考えられ、床に水分があった際に乾燥するまで時間がかかると考えられる状況にあったこと等から、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ない。

③開店時間前後において、本件店舗付近や被害者宅から本件店舗までの道のりにおいて強い雨が降っていたと考えることはできず、被害者の衣服等から多量の水が床に落ちたと考えられることはできず、転倒当時の床の状況は、多少水分を帯びていた状況ではあったとしても、床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。

④このような床の状況を前提とすると、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではなく、また転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまるものであったと考えられ、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められない。

⑤本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことにも照らすと、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。



損害賠償の範囲
本件事故は、本件ホールにおいて通常想定される行動によって生じた結果とはいえず、仮に、本件ホールの床の材質が、より運動の場に適した、弾力性、衝撃吸収性の高いものであったとしても、本件事故による原告の傷害の結果を避け得たかどうかは不明であるから、本件ホールの床の材質と本件事故による被害者の傷害結果の発生との間には、因果関係を認めることもできない。また、本件ホールの床の材質を変更しなかったことと本件事故による原告の傷害結果の発生との間に因果関係があると認めることもできない。

判例の解説

裁判所の判断
裁判所は、概ね以下のように述べて、原告の請求を棄却した。
1 国家賠償法2条1項に基づく責任(営造物責任)について
① 国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき    安全性を欠いていることをいい、営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである。

② 本件エントランスホールの使用実態を考慮に入れても、その床は当該場所にふさわしい材質が用いられており、本件多目的ホールの床についても特に不適切な材質を用いたとは認められない。

③ なお、本件ホールにおいては一定数の事故が生じていたことが認められるが、これらは遊戯中に通常起こり得る受傷などであって、これらの事故による負傷の程度は、本件ホールの床の影響で通常想定される負傷の程度より大きいことを示す証拠はなく、本件ホールの床が他の床と比べて安全性の面で有意な差があることなどは認められない。

④ したがって本件ホールの床が通常有すべき安全性を欠いているとは認められず、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵があったと認めることはできない。

⑤ また、本件事故は、本件ホールにおいて通常想定される行動によって生じた結果とはいえず、仮に、本件ホールの床の材質が、より運動の場に適した、弾力性、衝撃吸収性の高いものであったとしても、本件事故による原告の傷害の結果を避け得たかどうかは不明であるから、本件ホールの床の材質と本件事故による被害者の傷害結果の発生との間には、因果関係を認めることもできない。

⑥ したがって、国家賠償法2条2項に基づく責任は認められない。


2 国家賠償法1条1項に基づく責任又は安全配慮義務違反による債務不履行責任
① 上記のとおり本件ホールの床が通常有すべき安全性を欠いているとは認められず、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵があったと認めることはできないから、区又は本件小学校の校長が、本件ホールの床の材質を変えるべき義務を負っていたとは認められない。

② また、本件ホールの床の材質を変更しなかったことと本件事故による原告の傷害結果の発生との間に因果
関係があると認めることもできない。

③ したがって、国家賠償法1条1項に基づく責任又は安全配慮義務違反による債務不履行責任は認められない。



本判決のポイント
瑕疵の有無の判断に当たっては、実際の使用態様を考慮したうえで床材等が当該場所にふさわしいものであったかが考慮されていること、過去に事故があったとしてもその事故が当該場所の通常の使用に伴って生じうる程度のものであれば安全性の欠如とはいえず、設備等の変更義務はないとしていること、事故が通常想定される行動によって生じたものではない場合には設備の問題と結果との間の因果関係は否定されるとしていることが参考になる。

事件番号・判例時報 平成22年(ワ)19510号
1971号133頁 
裁判年月日 平成23年9月13日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 東京地裁 
判示 棄却 
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者 小学5年生 
天候等の状況  
 

滑り抵抗値(C.S.R)が基準値以上でも、滑る床はあります。

滑る、滑らないは数値だけでは一概に言えないのでは・・・

滑り抵抗値(C.S.R)が基準値以上でも、転倒事故は起こっていますよ。

 タイルにワックスを塗る???

 つい先日の事。某施設から滑り止めの依頼を受け現地調査に伺いました。レンガタイルが今回のターゲットなんですが、妙に艶があるんでよく調べるとワックスが施されていました。・・・(見分け方として、タイルの表面状態で確認できる場合は良いが、そうでない場合はタイル目地をチェックすると分かり易い。)

 以前は石やタイルにワックスを塗っている施設も多かったように思いますが、滑り転倒事故が問題視される今日では珍しいと言えます。

 本来ワックスを塗る目的は、Pタイル等の高分子系床材の劣化を抑制する事にあると思うのですが・・・美観維持とメンテナンスの簡素化を目的に、ワックスを幾層にも塗り重ねたら、そりゃ滑りますよ。

 ワックスには滑り止め骨材が混合されているものもありますが、その殆どが高分子床材(化学床材)に対応するもので、止む得ず、酸に弱い大理石に塗ってみたりする事はあっても、通常無機のタイルや石材には使用しませんし、また使うべきではありません」。ただし、エポキシ系のコーティングで画期的な技術を備えたものもありますが、これらは、ロケーションは変化するが、無機、高分子等の床材の滑り止めにおいて有効なものです。

 高級感を出したい気持ちは理解できますが、それならば敷設計画の段階で、それなりの床材を選択すべきであって、メンテナンスの簡素化を図る為に、ワックス塗布を選択する業者であるならば、思考、技術に問題があると思われます。

 過去5年程遡って転倒事故が発生し、弊社が防滑施工に携わった施設で、未だに法廷で紛争しているところもあります。そのうち2件はワックスが原因となってスリップ転倒したものです。

 防滑施工(滑り止め施工)して終わりではなく、ここから新たにスタートします。メンテナンスの始まりです。メンテナンスに関しては、それぞれ現場を管理する管理会社の皆様や従業員様等がメンテナンスしていくことになります。各々の本業はプロだと思いますが、滑り止めというジャンルに関しては、私たちがプロです。

 滑り止め施工後のメンテナンスは、少しお節介気味にアドバイスさせていただくこともあります。

 すべては、安全を維持して頂くためです

 専用のメンテナンスマニュアルを、都度作成しメンテナンスにおいてもオーダーメイドなんです。例えば、マンションやビル等のエントランスの汚れと厨房では違います。浴場やプールサイドと比べても違います。

 同じ床材でも、汚れが違えばメンテナンスの方法も洗剤の選定も違います。

 これは、当然ですよね。だから、効果的な専用の洗剤等を用意するのは当たり前のこと。なぜ滑るのか、なぜ滑りが止まるのか、なぜ専用の洗剤を使用したほうが効果的なのか等、知識の部分を現場にあったオーダーメイドで書面でマニュアル化したり、指導させて頂いたりすることによって、より良いものをご提供できると思慮しております。

すべてオーダーメイドなんです!と、いうよりすべてオーダーメイドであるべきだと思います。

 この知識の部分が非常に重要なポイントであるため、メンテナンスも「ME工法」。滑り止め施工の一部であることから、施工後も情報の共有に協力頂き、知識の部分をアドバイスさせていただいています。

安全対策に終わりはない

 使用していても、していなくても状況は変化します。この変化にも対応すべく、私どもは常に準備しています。「現場に合ったもの」をご提供する為に。

 従来は、転倒事故のほとんどは転倒者本人の不注意として片付けられてきましたが、近年では転倒事故に対する国民の意識も変わりつつあり、施設管理者に対して訴訟を起こすケースも増えてきました。そして訴訟にまで発展した事案では、施設管理者に不利な判決が出ているという現実があります。

転倒事故判例:裁判所内での転倒事故に105万円の支払い命令

大阪地裁堺支部で、視力傷害者の男性が階段で転倒し、肘の骨を骨折した。

判決   :
原告(転倒者)勝訴

判決理由 :
点字ブロックや滑り止めがあれば転倒することはなかった。公共性の高い建物には利用頻度にかかわらず安全確保の設備を設けるべきであり、こうした整備は努力目標ではなく、法的な義務であるとして、裁判所自らの瑕疵を認定し、裁判所を管理する国に対して105万円の支払いを命じた。
(大阪地裁 2004年12月22日)

転倒事故
判例:ウインズ渋谷内での転倒事故に、264万円支払い命令
ウィンズ渋谷で男性が転倒し、腰と左ひざをねん挫した。
判決   :
原告(転倒者)勝訴

判決理由 :
 転倒した場所は御影石が光を反射するほど磨かれ、傾斜している上、当時雨で濡れていた。歩行者が転倒する可能性は無視し難いものがあり、設置と管理には欠陥があったと判断しJRAに264万円の支払いを命じた。
(東京地裁 2006年9月27日)



 その他、スーパーマーケットの食材売り場、ファミリーレストランのフロア、薬局店舗内、自動車販売店のタイル床面、庁舎内の床、ホテル・旅館の浴場・エントランスなど、全国で転倒事故の訴訟・裁判が行われています。
バリアフリー新法が義務化されている現在では、安全管理上、滑り止め対策は避けては通れない安全対策です。


なぜ人は滑るのか?

   この質問にすぐ答えられる人はいないでしょう。そもそも答える必要もなければ、考える必要もありません。弊社は防滑のプロなので、この根源的な問いと真摯に向き合ってきました。

弊社の見解で言えば、滑りは大きく分けて3つのファクターの構成により発生すると考えます。

①床

②歩行

③環境とその汚れ

 の3つです。

滑りの3条件とは?

①床

 床の素材(硬軟、吸水性など)、形状(磨き、凹凸など)と敷設条件(例:室内外、勾配、階段、浴場、プールサイドなど)により異なります。

 床には磨耗により滑りを発生させるもの、反対に磨耗により偶然に滑りを抑制するもの、あるいは凝灰石(十和田石、伊豆若草石等)、モルタル等の吸水性が高く、本来滑りにくいはずの床も、油脂成分を含む汚れを吸い込み、床内の毛細管を塞いでしまう(目詰まり)と滑りを発生させる床に変身します。

②歩行

 歩行についての滑りは、その条件により異なります。

 裸足で歩く、何かを履いて歩く、普通に歩く、急ぎ足、小走り、走る、手荷物を持って歩く、急ぐ、お酒が入ったり、体調が悪かったり、考え事をしてたり、水溜りを飛び越えたり・・・。並び切れないほどの条件の中で歩行します。

また、歩行は年齢、運動能力に影響をうけることもあります。通常、歩行している時、体のバランスは無意識の中で保たれています。そこに一瞬滑りを感じた時、体に緊張が走ります。転倒を回避するためには、ある程度の若さと運動能力が・・・と思っています。

③環境とその汚れ

 環境とその汚れ要素については、上記に解説してる床が吸い込んだ油脂成分、水、ホコリ、苔、砂利など。子供時代に滑って遊んだバナナの皮なんてのもあります。私自身の経験ですが、傾斜10度程度のアスファルトの歩道で転倒したことがあります。原因は砂利でした。かすり傷でことなきを得ました。

 それから雨の降り始め、水の表面張力が滑りを誘発します。雨が降り出すと歩行が急ぎ足か小走りに変わり、雨の状況によっては全力疾走する人もいるでしょう。

 体重移動による負荷重が増すので、床に接する踵(かかと)の角度が大きくなればなるほぼ、滑りの危険性は大きくなります。

空気も滑りの要因のひとつ?

 平成11年8月の出来事です。
 あるプール施設のご依頼で、プールサイドと施設出入り口の通路、階段の滑り止め施工をしました。施工は順調に終わり大変喜んでいただきました。敷設されている床に対するメンテナンスマニュアルもうまく活用されていて、すべてが順調そのものでした。

ところがある日、子供が通路で滑ったとの電話が飛び込んできたんです。幸い怪我はなかったということでホッとしましたが、とにもかくにも施設にすっ飛んでいきました。

 施設に到着。お詫びを申し上げた後、通路と階段の滑りの安全チェックに取りかかりました。
・・・滑りを感じません。。。数回にわたりチェックしましたが滑りません。
不思議に思い施設の担当者に子供が滑った時の状況を尋ねてみました。その時に子供が履いていたのは、ビーチサンダルだったのです。その当時の私は、ビーチサンダルを含むクッション性のある履物が滑りやすいものであるという認識がありませんでした。施設はこれを機にビーチサンダルでの入場を制限し、その後子供のスリップに関わるトラブルは発生していません。

 人の歩行に体重移動は不可欠なものです。クッションがあると踵(かかと)が地面に着地した時に、履物がヘシャギます。空気が一気に抜ける時・・・地面と履物、履物と踵、それぞれの負荷重が一気に軽減されるとバランスが崩れ、滑りやすくなると考えました。クッション(空気)も滑りの要因となるから、ビーチサンダルはビーチで履くもの、と当時施設に対しある意味で妙な説得をしました。(笑)

履物と滑りの関係

高度成長期の頃(昭和30年〜35年)は履物と言えば下駄が多かったです。当時の田舎の道路事情は、舗装されている箇所と言えば国道を除くと現在の5パーセント程度だったみたいです。下駄はその点大変に都合の良い履物だったのです。

 半世紀を経て、道路事情は大きく変わりました。殆どの道は舗装されているのが当たり前で、並行し町並みも一変しました。土間がタイルに変わり、大規模な集客施設の床に至っては、明るい磨きの床材が普通に使われています。

 履物も限りなく増えました。生ゴム系の靴底がウレタン系ゴム底に変わっていき、10センチ以上もあるハイヒールを平然と履きこなす女性達。「滑ったお前が悪い」という教えは、今の時代「滑らせたアナタが悪い」に変わり、事故という考え方に発展し、法律の規制に委ねる時代になってしまいました。

履物が変わっても、変化していないもの

 その中にあって、まださほど変化していないものがあります。我々世代の滑りに対する思考です。一部の人を除けば、もう下駄を履いている人はほとんどどいません。時代が変わったんです。履物も変わったんですよ。自分の身を守るために考え方を変えましょう。

わが国は、60歳以上の予備軍を入れると3人に1人の割合に近くなります。世界のトップに並ぶ少子高齢者の国となるんですよ。滑りの問題は高齢者になればなるほど重傷を負う危険度は高くなります。自分を過信せず、安全に歩く事を心がけてほしいと思います。

てな流れの中で、履物と滑りの関係に入っていきます。

スニーカー(運動靴)と滑りの関係

スニーカー

 履物メーカー側も滑り対策には苦慮していると聞き及びます。神戸のメーカー下請け業者に伺うと、靴底の素材の選択から形状に至るまでメーカー担当者と細かい打ち合わせを重ねていると言う事でした。たまたま私が、伺った時もメーカー担当者と形状について話し合いの最中だった様です。

 私が下請け業者さんに時折伺っていたのは、滑りのファクター(要因)に履物が大きく関与するからなんです。特にスニーカー(運動靴)について、靴底の形態の推移を知りたいと考えていました。年々朝夕、ジョギングとウォーキングに勤しむ人たちが増えています。中でも目を引くのが高齢者と思われる?方の数が多いこと。

 そして履かれているスニーカーの靴底を観察すると、その大半がウレタン系ゴム仕様です。ウレタン系ゴムは比較的硬く、磨耗しにくいし、靴の中のクッションは歩行の負担を軽減してくれます。最近のスニーカーは本当によくできていると私は思っています。

 昔私がよく履いていた、世界長の地球印とか東洋ゴムの駒印、月星印なんてのは何処に消えたのでしょうか・・・。時代の流れなんですね。その時代の流れに重なるように滑りの問題が社会現象としてクローズアップされているのです。

 靴底も素材、形状として何がベストなのか特定できません。天候、歩行する床の素材、形状に加え人の動作(急ぐ、走る等)も滑りのファクターとして大きな影響があります。履物メーカーとタイルメーカーの共通したテーマが「滑り対策」ではないかと思います。

 タイルメーカーがCSRをクリアーし、安全と銘打って敷設したタイルの上を、雨天の日にウレタン系ゴム底のスニーカーを履いた子供が滑って遊んでいる光景を見るのは決して珍しくありません。ゴム底が不定形のものほど、よく滑るみたいです。

 意図的に凹凸を施した床もたくさんあります。石材においてはバーナー仕上げ、ビシャン仕上(たたき)などが一般的です。時折見かけるのがエポキシコーティングですかね。

 これらの摩擦係数は明らかに高い数値を示します。経年しても基本的な摩擦系数値は高いままです。ウレタン系ゴム底のスニーカーではどうでしょう?凹凸のある床は表面に棘(とげ)がある間は、小さな刺が靴底に引っかかり安定し歩行できます。結合粒子で形成された棘は大変に脆いものです。歩行頻度の多い箇所は簡単に削られてしまいます。棘が摩耗して「研げ」に変化すると、滑り出すんようになります。

ハイヒール物と滑りの関係

ハイヒール

では、ハイヒールと滑りについてはどうでしょうか?

 皆さん、つま先で歩いたことありませんか?内藤的イメージでハイヒールを解釈すると、“抜き足、差し足、忍び足”。そう、コソ泥歩きです。腰を下げて、バランスを保ちながら、つま先でそろ〜りそろ〜りと歩きますね。その時につま先は床に対し、垂直に近い状態で接地します。背筋をピシッと伸ばして歩いても、つま先の床への接地は同じように垂直に近くなります。

 コソ泥歩きも、背筋を伸ばし、つま先で歩くことも、続けると疲れますね。ふくらはぎがパンパンになって最悪は足がツったりしますよね。そこで踵(かかと)に突っ張り棒をつけるとけっこう楽に長時間歩けるようになります。つまり、これがハイヒールの原理だと思います。

 凍った床を歩く時、普通に歩けますか?無理ですね。この時脳細胞は必然的に、何故かしらコソ泥歩きの指令をだします。“用心して・・・足を垂直に降ろして・・・バランスを保って・・”なんてね。

つまり垂直に接地させることは、最大の摩擦力を使うことに繋がる訳で、ハイヒールという履物は、滑りに関しては理に適っていると内藤は思います。

 それでもハイヒールの転倒事故って結構多いです。そこで調査してみました。一番多いのが階段の踏み外し、そして踵(かかと)の引っ掛かりが原因での転倒、踵の凹凸での斜め接地による捻挫または転倒などが多いようです。もちろん滑って転倒もあります。

スケート場と化した厨房の床???

 タイトルを見て、そんなオーバーな?と思われるでしょうが、私自身、多くの現場で何度も尻餅ついて痛い目にあっています。

 もちろん滑り止めの施工現場ですから、現調時の出来ごとです。滑りの状態をチェックするために普通に歩いたり、急ぎ足で歩いたり、急に回転したりといろいろやるんですが、そのほとんどでズッコケました。

 まあそういうことで、とにかくよく滑りますし汚れています。

滑りを発生させる原因は多くありますが、大別して敷設されている床材と、日常のメンテナンスの2点に絞って記していきたいと思います。

厨房に使われる強化モルタルの特性 

 厨房といっても業種によってさまざまです。以前は、強化モルタル床(ハセップ等)が主流でしたが、近年は、劣化の問題や保健衛生上の保守管理が難しいと言うことで、タイルを敷設する施設が増加しているようです。

しかしながら、油汚れは厨房には付き物ですから、ほとんどの現場担当者は滑り対策で苦労されているようです。厨房に使用される強化モルタルは、スランプ(モルタルの密度の規格)が高レベルのもので吸水性が極端に小さくなります。吸水性の小さい床に、油脂を含んだ汚れが付着すると滑りは発生しやすくなります。

 それならばと几帳面な現場担当者が、日々洗剤を使いデッキブラシでゴシゴシ。油は水よりお湯の方が落ちやすいってんで、丹念にお湯で洗い流します。なるほど洗浄手法として理に適っていますし、事実私もそうします。

ですが、先々この作業が原因でさらに大きな汚れと、場合によっては滑りで悩むことになります。強化モルタル床の宿命的な弱点が悩みをもたらすことになるのです。

強化モルタル床の宿命的な弱点 

 強化モルタルにはスランプという規格があります。モルタルの密度を高めるためにモルタルに樹脂(ポリマー)を混入します。強化するといってもモルタルを硬くするのとは違います。保健衛生上、雑菌がモルタルに入りにくくするために考えられたことです。

 強化モルタルを敷設すると、当然ながら吸水性は極端に低下します。吸水性の低い床に、油脂成分が付着残留し、蓄積されてくると滑りが発生してきます。どこの施設担当者も同じだと思いますが、油汚れを除去するために日々努力されておられるはずです。洗剤を使い、デッキブラシでゴシゴシ、そして水やお湯で洗い流す。

前置きはこれくらいにして本題にいきましょうね。

 モルタルは成分の関係上、少しづつ水に侵食されていきます。ましてや、自分自身が働く聖域ですから皆さん懸命に洗浄されています。すると徐々に侵食が進み、又お湯を流したりするもんですから更に侵食されて、スランプ基準を充たした強化モルタルの床も、やがては吸水性が大きくなってしまうんです。クラックが発生する場合もあります。反面、吸水性が大きくなったおかげで床は、滑りにくくなります。

そして、1〜2年も経過した頃の床は、見た目でハッキリと判るほど、凹凸が出来てきます。これが云わば強化モルタルの弱点なんですね。

エッ!初めに厨房の床は、よく滑るって書いていたじゃないかって?

そうでしたね。

実は、それは油汚れの除去清掃が上手くできていない施設のことです。吸水性が大きくなると油汚れもその分床内に吸収され蓄積します。

ってことことは、汚れやすくなるの?

その通りです。

そして清掃がおろそかになると滑りで危険がせまり、経年すればするほど、清掃作業はシンドイものと化します。これも強化モルタルの成せる業だと言えます。

磁器タイルに油汚れが定着すると・・・ 

 厨房の強化モルタルについて簡単に記しましたので、磁器タイルの場合はどうなのか記してみたいと思います。

 強化モルタルとは違い、磁器タイルは多種多様のものが敷設されています。その大半は滑り対策上、表面に凹凸が施されています。摩擦抵抗で滑りを抑制しようと考えてのことだと思います。

某ファーストフーズの磁器タイル 

 1つだけ例を挙げてみます。有名な某ファーストフーズの磁器タイルは、摩擦抵抗を高めるという視点においては、よく考えられたものです。細かな凹凸があり、吸水性も高いものです。吸水性の高い床が滑りにくいことを知ってのことだと評価できます。

 ただ、残念なのは、その設計者がメンテナンスに精通していないことです。厨房の現場では、頭脳で考えられた優秀なアイデアも、役に立たないことが多いのです。

 途切れることのない多くの利用客、驚くほどの揚げ物の数量、それに伴う深夜にも及ぶ営業時間、営業終了後、従業員は黙々と後かたずけと翌日の準備に取り掛かります。大量に床に飛散した油は、指定されたアルカリ性洗剤を希釈し、簡単にモップで拭き取っています。キッチリ床を洗う時間がないのです。

 これでは試行錯誤し“これならいける”とされ敷設された床も悲鳴をあげてしまいます。そして凹凸も吸水性も安全面において何ら寄与することなく、反対に汚れと滑りを誘発させるための促進剤と化しているのです。“スケート場”と表現したのはオ−バーだとしても、近いものはあります。

某ファーストフーズだけを特定している訳ではありません。いずれのファーストフーズも同じ悩みを抱えています。相談があれば、即座に解決できる手法があるんですがね。この件は、これ以上書くと”資本主義のいやらしさ”に発展しかねないのでこの程度に。

洗浄方法は強化モルタルの場合と同様でいいと思います。アルカリ性洗剤を使いデッキブラシでゴシゴシ擦り、水かお湯で洗い流します。強化モルタルは経年すると凹凸になってくると先述しましたね。

 厨房のタイルはどうなるか?所々浮いて剥がれやすくなります。原因は、常に水がタイル床下に滞留するからなんですね。メンテナンス業者の方ならよく見かけられると思います。所々張りかえられているタイルを・・・。

○ 「店舗出入口手前段差転倒鼻背部傷害事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介」の続きで、この   

 判例と同様、民法第717条土地工作物管理瑕疵責任に関する判例紹介です。いずれも当事務所取

 扱事案に関連する参考判例です。

○ 被告が運営していたコンビニエンスストアの店舗内で原告が転倒し負傷した事故につき、原告

 が、本件店舗の床が雨や泥の影響で滑りやすかったにもかかわらず、被告がその防止措置や注意喚

 起をしなかったなどと主張し、工作物の占有者責任ないし安全配慮義務違反の債務不履行に基づ   

 き、逸失利益及び慰謝料等約6000万円の損害賠償を請求をしました。


○ この請求に対し、本件店舗に使用された床材やタイルに不備はなく、本件事故当時、被告は本件

 店舗の出入口に2枚の床マットを設置して靴底の水分等をできるだけ除去するよう対策を講じてい

 たこと等に照らして、転倒場所の床が雨天時に通常やむを得ず生じる程度の湿った状態を超えて滑 

 りやすい状態にあったとは認められない上、雨天の影響により本件店舗の床が湿っていることにつ

 き、来店客は一般にその可能性を認識しているのが通常であることも併せ考えれば本件店舗の床が

 通常有すべき安全性を欠いていたとは言えず、被告が来店客の安全を図るべき注意義務に違反した

 事実も認められない等判断して、原告の請求を棄却した平成23年1月27日東京地裁判決(ウエ

 ストロー・ジャパン)を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,金5961万5686円及びこれに対する平成18年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告が運営していたコンビニエンスストア「SHOP99・a店」(以下「本件店舗」という。)の店内で原告が転倒し負傷したこと(以下「本件事故」という。)につき,原告が,本件店舗の床が雨や泥の影響で滑りやすかったにもかかわらず,被告がこれを防止するための措置や注意喚起をしなかった上に,店内通路に荷物を置き歩行を妨げるなどしたため本件事故が発生したと主張し,工作物の占有者責任(民法717条1項)ないし安全配慮義務違反の債務不履行(同法415条)に基づき,逸失利益及び慰謝料等の損害賠償を請求している事案である。

1 争いのない事実等
(1) 原告(1957年○月○日生)は,b航空の客室乗務員として稼働している者である(甲22)。
(2) 被告は,生鮮食料品の販売等を目的とする株式会社であり,平成18年10月1日当時,「SHOP99」の屋号で食料品や日用雑貨を販売し,名古屋市〈以下省略〉所在の本件店舗を運営していたものである。
(3) 平成18年10月1日夕方,同伴者の女性とともに本件店舗を訪れた原告が,店内のパンコーナーと食品コーナーの間の通路を通行中に転倒する本件事故が発生した。
(4) 原告は,本件事故の発生後,救急搬送された名古屋市内所在の医療法人吉田病院においてB医師の診察を受け,帰国後はグアム所在のCMIファミリーメディカルセンターにおいてC医師の診察を受けた(甲4,5)。
(5) 本件事故の発生当時ころ,本件店舗付近は雨天であった(甲8)。

2 争点
(1) 設置又は保存の瑕疵及び安全配慮義務違反の有無

(原告の主張)
ア 本件店舗の床に使用されているPタイルは,他の床材と比べて水濡れ等で滑りやすいもので転倒事故を招く危険が指摘されており,設置にあたっては水や砂塵の持込みを抑え,持ち込まれた場合は直ちに除去するよう管理すべきことが指摘されている。そして,現に本件事故が発生していることや,水滴及び粉体がある状況下においてPタイルのC.S.R.値(滑り抵抗係数)が転倒の危険のある下限値に近い0.46ないし0.47を示していること,実際の靴の素材や歩行条件等によってはさらに滑りやすくなると考えられることからすると,Pタイル自体が転倒事故を招来する危険性があったといえる。

イ 本件事故当日の午後,本件店舗付近は雨天であったが,本件店舗の入口には足拭きマットが置かれておらず,店内の床が濡れており転倒の危険性が高い状況にあった。それにもかかわらず,本件店舗では,濡れた床をモップ掛けする店員もおらず,目視で店舗の床が濡れているのに気付くまでは床を拭くことなく濡れたままとなっているのを許容していた。

ウ また,床が濡れていることの警告を表示していれば,不特定多数の来店客に対し,より慎重な歩行を促して転倒の危険性を低減できたにもかかわらず,本件店舗には,来店客に対して床が濡れていることを警告する表示がなかった。

エ 本件店舗では,転倒場所となった通路に商品箱等の荷物を放置して,来店客が不自然な状況ないし無理な体勢での歩行を余儀なくされる状況を作出しており,床が濡れていたことと相俟って転倒の危険性を高めた。

オ 本件店舗は,不特定多数の来店客に場所を提供して商品を選択,購入させて利益を得ることを目的とした屋内の営利施設で,床の滑りやすさという危険性を排除するために必要な措置をとることは十分に可能であり,かつ,その利益から適切な費用を支出して各種措置を講じることが求められ,被告に課せられる安全管理義務の程度は高いものといえる。

カ 以上によれば,被告は,来店客が安全に買い物をできるように配慮すべき注意義務に違反していたため,本件店舗には通常備えるべき安全性が欠如しており,原告は,濡れた床に足を滑らせて転倒したものというべきである。

(被告の主張)
ア 本件店舗の床材は,コンビニエンスストアをはじめ多くの商業施設等で広く一般的に使用されているPタイルであり,水及び粉体を散布した状態でのC.S.R.値が0.46ないし0.47と,歩行に重点を置いた場合のC.S.R.値の許容範囲である0.40〜0.80に照らして,特に滑りやすい性状のものではない。

イ 本件事故当時の雨量は,1時間に1mm降るか降らないかという程度の小雨にすぎなかった上に,本件店舗の入口には外と内に合計2枚の床マットが置かれていたし,転倒場所となった通路も来店客が頻繁に通る部分ではなく,水滴が生じうる冷蔵ケースの付近でもない。また,転倒した原告に駆け寄った被告従業員のD(以下「D」という。)も床が濡れていたとの認識はなく,原告及び同伴者からも何ら指摘がなかった。よって,転倒場所の床が濡れて危険な状態になかったことは明らかである。

ウ 本件事故当時,本件店舗には床が滑りやすいことを示す警告板を設置していなかったが,警告板は,一般客が普通は知り得ない事情(ペンキ塗りたて,水拭き清掃など)があるから設置されるのであり,雨天で床がある程度濡れていることは来店客が一般に知りうることで,あえて警告しなければならないものではない。
 また,被告では,本件店舗の入口に靴底を拭くための前記2枚の床マットを敷いていたほか,傘立てを設置して濡れた傘が店内に持ち込まれないよう対策を講じ,床のPタイルは適宜従業員がモップで乾拭きしていた。

エ 本件事故当時,転倒場所の通路には,陳列用の箱や段ボール等が置かれていたが,歩行を困難にする程度ではなく,箱等は片側に寄せて通路を確保することが心掛けられており,台車等の転倒が懸念される危険な物も置かれていなかった。

オ 以上のように,本件事故につき被告には何らの責任もない。原告は,店舗内で転倒したから店舗側に責任があるとの,民法その他日本の法令が予定していない考え方に基づいて本件訴訟を提起している。なお,本件店舗に来店しただけでは,原告と被告との間に何らかの契約関係を認めることはできないから,安全配慮義務違反の債務不履行の主張は理由がない。

(2) 損害額
(原告の主張)
ア 原告は,本件事故により下腿後面等の筋肉群等の軟組織の断裂・損傷,浮腫ないし内出血,椎間板狭窄,既往症である脊椎の変性椎間板の状態悪化,既往症である右足首等関節の浮腫,骨盤不整列等の傷害を負い,継続した痛みや運動制限による苦痛を被り,客室乗務員としての勤務にも支障が生じた。
 本件事故以前の交通事故等による原告の後遺障害は12級相当であったが,本件事故後の原告の後遺障害等級は6級相当である。

イ 逸失利益 3839万6079円
 慰謝料 1580万0000円
 弁護士費用 541万9607円
 合計 5961万5686円

(被告の主張)
 争う。
 原告は,現在も航空会社で客室乗務員として勤務しており,6級相当の後遺障害を負っているということはあり得ないし,本訴提起後に症状の認定が大幅に変更された理由や症状が固定した時期は,未だ明らかでない。
 仮に,原告が何らかの後遺障害を負った状況にあるとしても,原告は,本件事故以前に交通事故に遭って足首を負傷しており,現在の症状は本件事故というよりは既存の状態が原因となった可能性のほうが大きいと診断されているほか,本件事故後にも空港で怪我を負ったようであり,本件事故以外の原因により症状が悪化した可能性もあるから,本件事故と損害との因果関係は何ら立証されていない。

第3 争点に対する判断
1 争点(1)について

(1) 前記争いのない事実等及び証拠(甲3,8,19,22,31,乙1,2の1ないし2の3,3ないし5,7の1・3,8,9の1ないし9の4,10ないし13,証人D)並びに弁論の全趣旨によれば,本件店舗の床に使用されているPタイルは,日東紡績株式会社製のコンポジション系ビニル床タイルであるポトマックPKN(以下「本件床材」という。)が使用されていること,本件床材は,コンビニエンスストア等の商業施設で一般的に使用されているものであり,本件店舗の床には平成16年の開店時に貼られたこと,平成22年4月に本件店舗の床から切り取られた本件床材は,品質性能試験の結果,C.S.R.値が乾燥状態で0.93,湿潤状態で0.88ないし0.86,水及び粉体を散布した状態で0.46ないし0.47であったこと,事務所等一般建築物の床の滑りの評価指標として,C.S.R.値の最適範囲は0.55ないし0.70,歩行に重点を置く場合の許容範囲例は0.40ないし0.80とされていること,本件事故が発生した通路は,本件店舗の出入口から見て右から2番目の幅約120cmの通路で,転倒場所は,同通路を出入口側から約5m入った位置にあり,両側がパンの陳列棚と調味料やレトルト食品等の陳列棚となっていて,本件事故当時,商品が入ったプラスチックケースが通路の約3分の1程度を塞ぐ形で床に置かれていたが,床のPタイル自体に損傷や顕著な劣化は見られなかったこと,本件店舗では,平成22年6月1日に被告の直営店からフランチャイズ店に変更されるまで,出入口の外側に1枚,内側に1枚の合計2枚の床マットが設置され,月2回の交換・洗浄が行われていたこと,本件事故当時,名古屋市では1時間に0.5mmないし2mmの降水量が観測されたことがそれぞれ認められる。

(2)
ア 以上の認定事実を総合すると,本件店舗に使用された本件床材は,水や砂塵の持込みを前提に測定したC.S.R.値に照らして,来店客が店内を歩行する場合に特段滑りやすい性質のものではなく,商業施設等で一般的に採用されているもので,本件床材が他の床材に比べて転倒事故の危険性が高いものであるとは認められないから,これを採用したこと自体をもって本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとはいえないし,本件店舗のPタイルは,本件事故の時点で新規設置から3年程度しか経過していないものであり,本件事故現場の床の状況を見ても,経年劣化が進んでいたとか管理・保存状態に不備があったとも認められない。

イ また,前記認定事実によれば,本件事故当時,本件店舗内の通路には,降雨の影響により来店客の靴底や傘等から水分が持ち込まれていたことが推認できるが,被告が本件店舗の出入口に2枚の床マットを設置して靴底の水分及び砂塵等をできるだけ除去するように対策を講じていたこと,転倒場所付近に陳列された商品や陳列棚から水滴や液体が床に落ちることは想定できないこと,本件事故当時,転倒場所に水たまりができていたとか泥で汚れていたという状況はなかった旨を証人Dが証言していることに照らしてみると,本件事故当時,転倒場所の床が,雨天時に通常やむを得ず生じる程度の湿った状態を超えて,水や泥で滑りやすい状態にあったものとはにわかに認められないというべきである。そして,本件事故当時,雨天の影響により本件店舗の床が湿っていることは,来店客にとって予期し得ない事態ではなく,一般にその可能性を認識しているのが通常であることも併せ考えれば,転倒場所の床は,乾燥時に比べれば若干の滑りやすさはあるものの,来店客が通常の注意力をもって歩行しても転倒する危険性があるほど滑りやすい状態にあったものとは認められず,転倒場所の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとは認められないというべきである。

ウ さらに,これら認定説示に照らせば,本件事故当時,本件店舗の床が滑りやすく転倒の危険性が高い旨を来店客に警告すべき状況にあったものとはいえず,これをしないことが被告の注意義務違反にあたるとは認められない。

エ 前記認定事実によれば,本件事故当時,転倒場所付近の通路は,約3分の1程度の幅が商品の入ったプラスチックケースで塞がれた状態にあったことが認められるが,これを考慮しても,同通路は,人が通常の姿勢のまま歩行できる幅員が十分に確保されていたものと認められ,来店客に不自然な姿勢や無理な体勢を強いて転倒の危険性を高めるような状況にはなかったものというべきである。

オ その他,本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたことや被告が来店客の安全を図るべき注意義務に違反したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) そうすると,本件事故当時,本件店舗の床が通常有すべき安全性を欠いていたものとは認められず,その設置又は保存に瑕疵は認められないというべきであるし,被告が来店客の安全を図るべき注意義務に違反した事実も認められないというべきであり,原告の主張は採用できない。

2 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
 (裁判官 小崎賢司)
 

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