事案の概要
被告が経営するスーパーマーケットを顧客として訪れた原告が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負ったとして、被告に対し、①建物の管理について瑕疵があったとして民法717条に基づき、また②被告の従業員において、床を濡らしたままにしないよう水分を拭く等の注意義務があったのに従業員らがこれを怠ったものであるとして民法715条に基づき、治療費等の損害賠償を請求した事案である。
裁判所の判断
1 本件店舗の床の材質(床材は「コーデラ」という材質)からすれば、本件店舗の床はそれ自体として特段危険性を有するものではなく、床に水濡れが生じたとしても直ちに危険となるものではない。
2 床の一部分についてのみ大きな水濡れが生じ、周辺と大きな滑り抵抗値の差が生じた場合には、一応転倒の原因ともなりうる状況にあったものというべきであるが、当日の開店前に若干の水分が転倒現場付近に残っていた可能性は必ずしも否定されないにせよ、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ないことなどからすれば、転倒当時の床の状況としては床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。
3 したがって、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではないこと、転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまり、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められないこと、本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことからすれば、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。よって、本件店舗の床の管理について瑕疵があったとは認められず、また被告従業員において床の管理に関する注意義務違反があったとも認められない。
本判決のポイント
設備等の材質や同様の被害状況の有無等から当該工作物の設置保存の瑕疵の有無を検討している点が参考になる。