事案の概要
旅館の駐車場に顧客の自動車を駐車させていたところ、前面の丘陵が豪雨により崩落し、自動車が土砂をかぶって被害を受けたことから、顧客が旅館経営者に対し、場屋営業者の寄託責任に基づき損害賠償を請求した事案である。また、同時に、顧客が豪雨による浸水後、泥水に足をとられて旅館内の便所で転倒して負傷した場合について、旅館の安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した。
裁判所の判断
①裁判所は、土砂崩れの原因となった集中豪雨は、「稀にしか発生しない災害であったということができる」としながらも、その「崩落箇所はその全体の一部にとどまること、本件丘陵部分は傾斜地であるにもかかわらず、これに接して駐車場が設けられていたことからすれば、本件丘陵部分に何らかの土留め設備が設けられていれば本件崩落事故は生じなかったとの可能性を否定し去ることはできない。」とした。また、「本件丘陵部分の土砂崩れが始まってから本件車両に土砂が被さるまでの崩落の勢いはさほど急激なものとまではいえなかったことが推認され、そうだとすれば、被告従業員等が事態に迅速に対応していれば本件車両の損傷の被害を防止できたとの疑いがある。」と認定し、「本件車両が損傷したことが不可抗力によるものとまで認められない」とした。
②また、裁判所は、転倒事故についても、「泥水が浸水した後の本件便所の清掃管理につき、同所を利用しようとする者がすべって転倒することがないよう十分に清掃して泥水を除去し、又はこれが不十分な場合には当該場所に立ち入ってはならない旨の表示をすべき信義則上の安全配慮義務を負っていたというべきところ、それにもかかわらず、これを尽くさなかった結果、本件転倒事故を発生させた」と認定し、転倒事故に係る損害賠償責任も認めた。
本判決のポイント
自然災害についても、自然力が存在している時点及び事後的な対応が不十分であることにより、法的責任が生じる可能性があることに注意が必要である。